疾患について

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 1)頚部痛、肩こり、手の痛み、手のしびれ

肩こりや首の痛み、肩や腕のしびれはいろんな疾患から生じますが、整形外科で一般に多いのは頸部脊椎症です。

首を含む背骨は、骨(椎体)と椎間板(クッションの役割をする)から成っています。頸部脊椎症は、加齢や無理な姿勢などによって頸椎の骨、椎間板、靱帯などが退行変性(老化=頸椎症性変化)したことによって起こります。主な症状は肩こり、頸部痛、上肢痛、上肢のしびれ、上肢の脱力(だるさ)などです。骨や椎間板の変形がさらに進んで脊髄を圧迫すると、手が動かしにくくてボタンのかけはずしができなくなったり、足のしびれや突っ張りに伴う歩行障害、排尿・排便(膀胱・直腸)障害が出ることもあります(脊髄症)

治療は消炎鎮痛剤(痛み止め)、筋弛緩剤(筋肉の緊張やこわばりを取る)などの薬物療法や、牽引療法などの理学療法を行います。頸部痛がひどく、薬物療法では効かない場合は患部に直接、またはその近くに薬剤を注射する神経ブロック療法を行います。歩行困難などの脊髄症には、場合により入院して牽引療法や手術療法に至ることがあります。また、手指のしびれには後述する手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん;「手の外科」の項参照)などもあります。

 2)五十肩(肩関節周囲炎)

40歳代以降になると、肩の関節が痛み、次第に動きが悪くなってくることがあります。普通、五十肩と呼ばれていますが、医学的には肩関節周囲炎といます。加齢に伴い肩関節の周囲の組織に炎症が起こることが原因とされています。

五十肩というのは「肩が痛い」「腕が上がらない」といった疾患の総称で、誰もが決まった症状を起こすわけではありません。

原因を列挙すると、肩の筋肉の付け根にある腱板の炎症(腱板炎)や、肩関節の運動をスムーズにする機能を持つ肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)の炎症(肩峰下滑液包炎)、腱板に石灰が沈着することにより手が上がらなくなる石灰沈着性腱板炎、力こぶをつくる上腕二頭筋の長頭腱腱鞘炎(ちょうとうけんけんしょうえん)などがあります。

治療には消炎鎮痛剤の内服投与、関節内への局所注射、リハビリ療法(ホットパック、低周波などの「温熱療法」、関節を動かす「運動療法」)があります。慢性期はリハビリ療法が治療の中心になります。それでも改善が見られない場合は手術療法、全身麻酔下で関節鏡(内視鏡)を使って関節の中の癒着を剥がし、関節の動きをよくする受動術を行うこともあります。

よく「五十肩はそのうちに治る」などと思われがちで、ギリギリまで我慢をしてから来院される患者様が多いようですが、かえって治療期間が長引いたり、後遺症が残る場合もありますので早めに受診されることをお勧めします。

(図1)肩の構造です。
肩の挙上に関与する筋肉の付け根が腱板という組織です。腱板と肩甲骨の上方に位置する肩峰との間に肩峰下滑液包と呼ぶ肩の運動をスムーズに行うための組織があります。上腕骨の前方には上腕二頭筋長頭腱という力こぶを作る筋肉のすじが走っています。

 3)腰痛

腰痛は、急性腰痛慢性腰痛に分かれます。急性とは3カ月以内に発生したものをいい、慢性とは痛みが3カ月以上にわたって継続する状態をいいます。

急性腰痛には、前かがみで物を持ち上げた時など日常生活の動作やスポーツによる腰痛があります。痛みの原因は、筋肉、椎間板、椎間関節(骨の連結部分)などの損傷が考えられますが、高齢者の場合は骨粗しょう症による背骨の骨折もあります。まれなケースとしては、強い疼痛を伴う癌による骨への転移や、尿路結石など他科の疾患のほか、細菌、結核などによって骨が破壊されることもあります。

慢性腰痛の場合は心理的な要因(生活に対する不安、うつ状態など)が関与していることもあります。 以上から、激しい腰痛、安静にしていても痛みがある場合、さらには長期間にわたって腰痛が生じる場合は病院、専門医での受診が必要です。

治療は消炎鎮痛剤や筋弛緩剤、場合によっては抗うつ薬や抗不安薬、外用剤による薬物治療、コルセット、局所への注射、リハビリ療法(牽引療法、温熱療法など)、運動療法(腰痛体操、ストレッチなど)があります。しかし、最も大切なことは予防です。常日頃より腰への負担をかけないような姿勢、腰部のストレッチを心がけておくことが重要です。

(図2)腰の骨を正面から見た図です。椎体(骨の前方部分)と椎体の間にクッションのような働きをする椎間板があります。

(図3)側面から見た図です。後方部分にある骨と骨の間には椎間関節という連結部分があります。Aは正常の椎間板と骨の前縁です。Bは高齢者の場合で椎間板は薄くなり、骨の前縁も嘴のように尖っています。

 4)腰椎椎間板ヘルニア

背骨の間でクッションの役割を担っている椎間板の中の髄核という柔らかい組織が、椎間板の後方へ飛び出し、足へ行く神経を圧迫する状態をヘルニアといいます。症状は初めに腰痛、続いて通常は左右どちらかの下肢痛、下肢のしびれ、筋力低下などが起こります。巨大なヘルニアの場合、排尿・排便障害をきたすことがあります。

治療は重度の下肢筋力低下や排尿・排便障害がない限りは、手術をしない保存療法が第一の選択となります。前項「腰痛」と同様の治療のほか、神経や神経の周囲に薬液を注入して痛みを取る神経ブロック、脊髄を取り囲んでいる外側の硬膜外腔に注入する硬膜外ブロックなどのブロック療法があります。

疼痛が強く、保存治療では痛みが取れなかったり、排尿障害などがある場合は手術療法を行います。要は飛び出したヘルニアを取り除くわけですが、これには症状に応じて種々の方法が選択されます。

(図4)椎間板の上方からヘルニアを見たところです。椎間板の中央には髄核があり、周囲には線維輪があります。図は椎間板の中央にある髄核の一部が後方へ脱出して、神経が圧迫されています。

 5)腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)

加齢などに伴い、腰椎や椎間板の変形によって神経の通り道である脊柱管が狭くなり、その中の神経が圧迫されます。このため下肢痛や下肢のしびれなどの症状が出てきます。この疾患の特徴的な症状が間欠性跛行(かんけつせいはこう)で、歩き出してしばらくすると下肢に痛みやしびれが現れ、前かがみで少し休憩しないと歩き続けることができない状態になったりします。

治療は、「腰痛」「椎間板ヘルニア」の項で述べたような保存療法が優先されますが、それを続けても効果が得られない場合は手術療法が選択されます。手術には、骨を一部削って神経への圧迫を取り除く開窓除圧術や、さらに脊椎に対して骨の移植や金属を使って固定する脊椎固定術を併用する場合もあります。

(図5)Aは正常の脊柱管ですが、Bは前方からは骨、後方からも肥厚した骨や靱帯によって脊柱管が狭小化しています。CはMRI像であり、矢印の部分の神経が圧迫を受けています。
(出典;THE ADULT SPINE principles and practice RAVEN PRESS p1803)
(出典;整形外科外来シリーズ1 腰椎の外来 メジカルビュー社 p163)

 6)膝関節痛

日常の外来で、最も頻度が高い膝疾患は変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)です。これは主に膝関節のクッションである軟骨のすり減りによって、膝の関節に炎症が起きたり、関節が変形して痛みが生じる病気です。

とりわけ中高年の女性に多く、肥満、体質、骨折などの外傷が原因になることもあります。症状は徐々に進行して、まず痛みがはっきりと自覚できるようになり、膝に水がたまったりします。さらには膝が完全に曲がりきらない、伸びきらない状態が進み、正座やしゃがみ込む等の動作が困難になったりします。

治療は内服剤や外用剤、関節内注射(主にヒアルロン酸)をはじめ、リハビリ療法(膝関節を支える大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の筋力訓練、膝を曲げ伸ばしする関節可動域訓練、温熱療法など)、装具療法(サポーター、足底板の使用など)があります。これらの保存治療を行っても症状の改善がみられず、関節が変形して日常生活が困難になった場合は、膝の変形を矯正する骨切り術(高位頸骨骨切り術)や人工膝関節置換術を行うことがあります。

(図6)Aは23歳男性で正常な膝関節ですが、Bは68歳女性の膝関節であり、関節軟骨が消耗して隙間が狭くなっています。

 7)足の診察

女性に多くみられる外反母趾や、かかとや土踏まずの部分が痛くなる足底筋膜炎の治療は保存治療が原則です。まず足に合った履物やストレッチの指導を行います。また、外用剤の処方、矯正のための装具療法もあります。これらの保存治療を行っても効果がなければ手術療法も検討されます。

 8)骨粗しょう症

骨の成分であるカルシウム量などが減って骨がスポンジのように脆くなり、骨折をしやすくなる状態をいいます。

特に女性はホルモンのバランスが変化する閉経後、骨の量が急激に減るため、骨粗しょう症になる人の割合が高くなります。骨粗しょう症になると、わずかなことで骨折を生じやすくなります。骨折しやすい部位として、上腕骨の付け根、脊椎、手首、大腿骨の付け根などがあります。

骨粗しょう症は高齢者が寝たきりになってしまう大きな原因の1つです。症状は背骨の鈍痛、疲労感、背骨の変形や骨折による背中の曲がりなどが現れます。閉経後の女性は一度、骨密度の測定をしておくことが大切です。対策としては、日頃から十分なカルシウムなど必要栄養素の摂取、運動をする、日光を浴びるなどの生活習慣を心がけることです。しかし、骨密度がかなり低い場合は積極的な治療が必要となります。

現在、日本では種々の治療薬(参考;当ホームページ Q&A骨粗鬆症 特集)があります。不幸にして骨折を生じた場合は年齢、生活環境、合併症などを考慮し、骨折した箇所によりますが、ギプスによる固定や装具療法、手術療法などが検討されます。

(図7)背骨を立て切りにした割面です。Aは正常の骨ですが、骨粗鬆症になるとBやCのように骨がスポンジ様に脆くなり、骨が変形して高さが低くなります。

 9)関節リウマチ

関節リウマチは、原因不明の多発性関節炎を主体とする進行性の疾患と定義されています。正確な原因はまだ解明されていませんが、遺伝的素因がウイルス感染やストレスなどの外的因子をきっかけに「免疫異常」が生じ、全身の多くの関節に炎症を起こすのではないかと考えられています。主に30~40歳代の女性が好発年齢ですが、あらゆる年齢でも生じる可能性があります。

よく罹患するのは、手の関節、手の指(第2関節や指の付け根の関節)、膝・足の関節、足の指の付け根の関節などです。倦怠感、食欲不振、微熱もみられることがあります。朝の手のこわばりなども代表的な症状の一つです。関節リウマチは早期に発見し、適切な治療が必要ですから、ちょっとした症状の変化を見逃さず、疑わしい場合は専門医による診察と検査を受けることが何より大切です。

治療は薬物療法が中心になります。従来の抗リウマチ剤やメトトレキサートなどの免疫抑制剤のほか、現在ではリウマチの進行を抑制する生物学的製剤やJAK阻害薬の開発もめざましく、薬物療法の選択肢は広がっています。関節リウマチは一人ひとりの症状も、疾患の進行度合いも異なります。関節組織の破壊がひどく、日常生活に支障をきたすような場合は、手術療法(滑膜切除術、人工関節置換術、関節形成術、関節固定術)が必要になる場合があります。

 10)手の外科

職業柄、手を酷使する人たちによくある疾患に手首や肘の腱鞘炎(けんしょうえん)があります。治療としては内服剤、外用剤、注射療法、温熱治療、ストレッチなど保存治療が基本になりますが、難治性の場合には手術治療を検討されることがあります。

指のしびれが生じる手根管症候群という疾患もあります。手首の手のひら側にある骨と靱帯に囲まれた手根管というトンネルの中を、正中神経と呼ばれる神経が通っているのですが、その正中神経が手の過度の使用など何らかの原因で圧迫されることによって起こります。第1指から第4指まで痛みやしびれがあり、進行すると夜間に疼痛が現れ、親指に力が入らない、小さな物がつかめないなどの症状が出てきます。治療は局所の安静、消炎剤、ステロイドの局所注射がありますが、改善の得られない場合は手術療法になります。

また、関節リウマチと間違えられやすい疾患として、指の第1関節のみが膨張する変形性関節症(ヘバーデン結節)があります。ヘバーデン結節の治療は保存治療が原則で、手術をしない方法でほとんどが対応できます。